54)歌手として

54)
今回は音楽のお話です。
私の歌手としての宣材(宣伝用資料)には「ジャンルレスで歌い続けてきた渡辺エマ」という一文があります。
知人の女性プロデューサーが考えてくれた表現で、とても私に合っているなと気に入ってずっと使わせてもらっています。
ではジャンルレスな歌手って何?
渡辺エマという歌手はファドを歌っているんでしょ?
ファドっていうのは一つのジャンルじゃないの?
と突っ込みが入る気がしますが。。
「ジャンルレス」この言葉は今の私にはとても重要なんです。
小学生の頃の私は、流行の歌謡曲は勿論いろいろ聞きましたが、どちらかというと賛美歌のようなクラシック系の壮大な雰囲気の曲が好きでした。
なかでもベートーベンの「第九」(喜びの歌)はあの奮い立つようなメロディが大好きで、でも普段大声で歌を歌う場所なんてありませんから、せいぜい学校の音楽の時間に音楽室で張り切って歌う程度でした。
大きな声で歌いたいなあ〜〜〜
そしてやっとチャンスはやってきました。
小学校6年の修学旅行で東京から日光行きの電車に乗った時の事です。
長時間あの「ガタンガタン、ゴトンゴトン」という電車の音の中に居る時に「これはチャンスだ!」と思い、電車の窓から顔を出して外に向かって思いっきり大きな声で「第九」を熱唱しました。(危ないから真似はしないで下さい)
意味もわからないドイツ語で、窓から外に向かって熱唱する私の背中をクラスメイトはどん引きで見ていたかもしれません。
いや、絶対どん引きしていたでしょう。
でも私は車窓に流れ行く田園風景にみとれながら思い切り大きな声で
「♪フロイデ シェーネル ゲッテルフンケン トーテル アウス エリーズィウム〜〜〜♪」と、この上も無い快感に浸って歌いまくりました。
気持ちよかったーーー!
だからこの修学旅行の一番の思い出はもちろん「第九」です。笑
とにかく歌う事が大好きっていう子供だったわけです。
その後はロックの洗礼を受け、その音楽の格好良さも勿論ですが、ロックという音楽の周辺の文化そのものがもう強烈に魅力的で夢中になりました。


自由!
この一言につきますね。
人種とか年齢とかはロックの世界では意味をなしません。
もともとお互いをファーストネームで呼び合う国の音楽です。
先生だろうと先輩だろうと「ジョン」とか「リチャード」とか呼んでいいんです!
誰かが誰かに偉そうになんてしません。
私は自分が偉そうにするのも、偉そうにされるのも大嫌いなんです。
そして好きな服装をしていいんです。
ファッションで自分を表現していいんです。
皆が同じである事が美徳のような日本に生きる私には夢のような自由な世界!
型通りの生き方をしなくてもいいんです。


それを理解しない大人や教師はもはや外の世界の人。
「堅苦しいダサイ人」です。
だからロック(音楽)を好きだというだけで、もう同じ世界の価値観を持った仲間!
友達が一杯できました。
家と学校ぐらいしか世界を知らなかった私には、ロック(音楽)の世界はとてつもなく広く自由な大人の世界への入り口にも感じられました。
そして思い切り若さをぶつけるようなロックの名曲の数々に、自分もまた若さをぶつけて、聞いたり歌ったり踊ったり、音楽を通して青春を楽しみました。

そのうちにテレビのCMの音楽を歌わせていただけるようになって、一気に私の音楽範囲も広がりました。
CM歌手は声の仕事人です
「セクシーなソウルシンガーみたいに」とか
「演歌っぽく」とか
「オペラふうに」「沖縄風に」
なんていうふうにその広告のコンセプトに沿ったイメージで注文されて歌を歌います。
なかには、
「幼児向けの歌い方を」とか
「お風呂で眠っちゃいそうな気持ちのいい感じ」とか
おもしろい注文もありましたが、プロデューサーやクライアントさんから「オッケーです!」との声をいただいた時の充実感はとても気分のいいものです。
CMの仕事のおかげでいろいろな歌い方に挑戦して、今迄自分が歌って来たロック系の音楽以外にも興味がわいて、またそれが勉強になりました。
例えば邦楽。
今迄古くさいと思っていた音楽も、CMで狂言っぽい歌を歌った時に興味を持って、実際に体験してみたり。
京都で狂言を教えて下さった先生はチェコの人でした!


外国人の先生の側から噛み砕いたからこそ、素人の私にも垣根が低く、判り易い狂言でした。
日本の古い伝統と格式の、きっととっても閉鎖的な古典芸能の世界に、ヨーロッパ人が単身乗りこんで芸を習得し、教える迄になるというのはどんなに大変な事か!
単身リスボンに乗り込んで、ファドというとっても狭い社会の音楽を歌っている私には激しく共感出来る先生の人生です。
先生を見ていると勇気が湧きます。
行動さえ起こせば世界は広がりますね!
また、海外にしばしば旅をするようになるとそれぞれの国の伝統的な音楽にも触れ、それも勉強になりました。
イタリア、スペイン、ギリシャ、トルコ、チュニジア、フィリピン、インドネシア、中国、フランス、イギリス、行った先々で地元の音楽を聴いたりCDを買い集めたりしたことも歌手としての自分の財産になっています。
広い世界には本当に色々な種類の音楽が有るんですね!
そして色々な音楽に触れていくうちに、判ったことが有ります。
どんなに未知の音楽でも、その音楽のルールとか理屈とかを全く知らずに聴いても、「これいいな!」と思ったり「なんかイマイチ」と思ったりするのです。
それはやはり、演奏の上手い下手によるものです。
プレイヤーにも歌手にも技能は重要だということです。
レストランのシェフも大工さんも、みんな同じですね。
或る時、イタリアの古代(起源3世紀)から残る野外劇場でオペラを観ていたときの事です。

その時の演目は「カルメン」でした。
「カルメン」は大好きな演目で、その野外劇場で「カルメン」を観るのもその時でもう3回目くらいだったのですが、この時いつもと違う忘れられない歌に出会いました。


「カルメン」の主な登場人物は4人。
カルメン、ドンホセ、ミカエラ、エスカミーリョです。
あらすじを簡単に纏めるとこうなります。
『舞台はスペインアンダルシア地方セビーリャ
カルメンというジプシーの女が、ドンホセという兵士を好きになって誘惑する。
ドンホセにはミカエラという許嫁がいたがすっかりカルメンに夢中になってしまう。
気まぐれなカルメンはすぐにドンホセに飽きると闘牛士エスカミーリョに乗り換える。
カルメンに冷たくされたドンホセはカルメンを殺してしまう。』
という、なんだかストーカーチックなお話です。
さて、このオペラの第三幕の中程に清純な娘ミカエラが独唱するアリア「なんの恐れる事がありましょう」というとっても綺麗な曲があります。
そしてこの時のミカエラ役の歌手の歌ったこの歌がとんでもなく良かったのです。
もう何度もこの場所で「カルメン」を観ている私ですからこの曲も何度も聴いています。
しかし、この年のミカエラは全く違った!
もう理屈では何も説明がつかないのですが、本当に素晴らしい歌だったのです。
歌の中盤から、彼女の歌がどんどん観客を引き込んでいくのが目に見えるようにわかりました。

グイグイ心を鷲掴みにされ、彼女の声がその場の1万6千人の観客を支配していくのがわかります。
全員が感動しているのが私に伝わって来ます。
あんな空気は初めてです。
フランス語の歌詞の意味はいちいち手元の解説を読まないと判らないような外国人の私にも、「今、何かすごい歌を聴いているんだ」という事がはっきりとわかりました。
そして、彼女の歌が終わると鳴り止まない拍手が、、、何分続いただろう、、、!
あのような経験は後にも先にもあれっきりです。
鳥肌がたちました。
世界中からやってきた1万6千の聴衆が一人の女性の歌声の前にひれ伏したのです。
完全に主役のカルメンを喰ってしまったミカエルでした。


(※写真は全てその時より後に行った時のものです。)
この経験から私は歌手として、音楽家として、「良い物はいい」というレベルを目指す事が一番大切だと学びました。
例えばジャズが好きな人でも演歌しか聴かない人でも、あのミカエラの歌には心を打たれると思うのです。
歌手として何かを歌う時は、ジャンルに拘る事無く、理屈に頼る事無く、聴く人全てをその声だけで感動させるレベルを目指す。
無条件な感動
それを彼女から教わりました。
なんともシンプルですが、私にはとても高いハードルです。
でも、一度しかない人生。
自分からハードルを下げて、後から「ああ、あの時チャレンジすれば良かった」って後悔するのは嫌です。
挑戦有るのみ!
その為に大切な事は、歌手としてはあまりにも当たり前ですが「きちんと音程を保つ」とか「正しい発声で歌う」とか、、、まさに「基本」。
そしてそれを実現するのは「練習」なんですね。
もう今は電車の窓から顔は出せませんから、家やスタジオでひたすら練習です!
好きな事の練習なら苦になりませんよね♪
最近でも、気がついたら9時間歌っていたなんてことがあります。
そういった事から「ジャンルレスで歌い続けて来た渡辺エマ」という言葉は私を表す言葉として本当に光栄にも思います。
これからもずっと自分の信条として大切にしたい言葉だなと思っています。
今、私はポルトガルのファドに自分の全てをかたむけて歌わせていただいているのですが、基本的な部分は今迄と何も変わりません。
歌手としての自分の仕事で、聴く人に喜んでいただく、感動していただく、リラックスしていただく。
それは私の喜びです!
遠い昔に修学旅行の電車の窓から顔を出して「第九」を熱唱していたあの頃の自分が今の私を見たら喜んでくれるように、これからも丁寧に音楽と向き合っていきたいと思います。
☆次回4月17日のファドナイトはおかげ様で満席になりました。ただいまキャンセル待ちにてご案内させていただいています。もしよろしかったらお店にお電話下さい。
また近々次のライブのご案内もさせていただく予定でいます。
ご都合が宜しければ是非一度お越し下さい。
『FADO Night at Pesca Bianca 』
2016年4月17日 日曜日 pm6:00~
京王井の頭線「駒場東大前」西口徒歩3分
〒153-0041 東京都目黒区駒場2-14-1
於「ペスカ ビアンカ」
¥5500(コースディナー、ライブチャージ込み)ドリ
ご予約 Tel 03-5453-3161
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